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京都地方裁判所峰山支部 昭和46年(ワ)2号 判決

主文

被告は原告両名に対し、それぞれ金二八八万円及びこれに対する昭和四六年三月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告両名のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その四を原告両名の、その余を被告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告両名に対し、それぞれ金一、四九三万〇、二七八円及び各金員に対する本訴状送達の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故

(一) 発生日時 昭和四五年五月八日午後七時三分ころ

(二) 場所 京都府中郡峰山町呉服二七番地先交差点国道一七八号線

(三) 加害車両 普通貨物自動車(京一い四八八八号)

(四) 右車両運転者 塚田健一

(五) 被害者 日達徹弥(当時一〇年)

(六) 事故の態様 加害車両は、南進中、右交差点を左折東進しようとした際、自転車に乗り南行直進中の被害者に加害車両の車体左前面部を衝突させて同人を転倒させたうえ、同車右後輪で同人を轢過即死させた。

(七) 被害者の権利の承継 原告らは被害者の両親であり、相続によつて被害者の権利を承継した。

2  帰責事由

被告会社は、右事故発生当時において、本件加害車両を訴外日通商事株式会社から賃借し、その運行を支配し運行利益を有していたものであるから、同車両の運行供用者として自賠法三条による損害賠償責任がある。

3  損害

(一) 得べかりし将来の利益の損失 金二、五五四万三、三八六円

(1) 平均年収入

(17万7,200円×12)+81万3,000円=293万9,400円

注(財団法人労働法令協会の昭和五〇年賃金センサス第一巻統計表第一表二頁における男子労働者大学卒の項記載による。)

(2) 生活費五〇パーセント控除、就労可能年数二二歳から六七歳までとし、新ホフマン式による算出

293万9,400円×0.5×(26.595-9.215)=2,554万3,386円

(二) 慰藉料 金六〇〇万円

原告一人について各金三〇〇万円

(三) 葬祭費等 金三〇万四、五〇〇円

(1) 葬祭費 金三〇万円

(2) 死体検案書 金一、〇〇〇円

(3) 診断書 金五〇〇円

(4) 死体処置料 金三、〇〇〇円

(四) 弁護士費用 金三〇一万七、一六九円

(五) 計 金三、四八六万五、〇五五円

(六) 損害の填補 金五〇〇万四、五〇〇円

(七) 差引計 金二、九八六万〇、五五五円

原告一人について金一、四九三万〇、二七八円

二  請求原因に対する認容

1  請求原因1項の事実の内、(一)、(二)、(三)、(四)、(五)及び(七)の各事実並びに(六)のうち、加害車両の惹起した事故により被害者が死亡した事実は認める。

2  請求原因2項の帰責事由は認める。

3  請求原因3項の損害額は争う。

但し、原告らが五〇〇万四、五〇〇円の賠償を受けたことは争わない。

4  過失相殺の主張

(一) 被害者の過失

(1) 被害者は、きわめて明瞭な加害車両の左折信号を見落したうえ、直進しようとしたこと。

(2) 薄暮交差点を自転車に乗つたまま、加害車両左側と道路端とのわずかな間隙を直進しようとしたこと。

(3) 道路交通法三四条五項のいう左折車の進行を妨げたこと。

(4) 大型貨物自動車である加害車両の進行中に、その騒音などの威力をも顧みずに無暴にこれと併進したこと。

(二) 両親の過失

危険な道路では自転車に乗らないよう厳重監督すること及び交通安全のための正しい習慣を身につけさせるため家庭においてしつけるべきであるのに、これを怠つて危険な時間に危険な本件交差点を通行しなければならないような珠算塾に被害者が自転車で出かけるのを見逃したこと。

以上の如き被害者側の過失を斟酌して本件損害賠償額を算定すべきである。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生及び帰責事由

本件加害車両の惹起した交通事故により被害者日達徹弥(当時一〇年)が死亡したこと、被告は同車両の運行供用者であること及び原告両名は右徹弥の両親であり、同人の権利を相続により取得したことは、いずれも当事者間に争いがない。

従つて、被告は自賠法三条により、原告両名に対し、それぞれ後記損害を賠償する責任がある。

二  損害

1  逸失利益 金五四六万円

被害者日達徹弥が本件事故当時満一〇歳の男児であつたことは当事者間に争いがない。そこで同人の将来得べかりし利益を左のとおり算定する。

(一)  算定年収額 金六四万八、一〇〇円(昭和四五年度賃金センサスによる男子大学卒の二〇―二四歳労働者の平均賃金)

(二)  生活費控除 五〇パーセント

(三)  就労可能年数 四三年(二二歳―六五歳)

(四)  ホフマン係数 一六・八五七二

(五)  逸失利益額 金五四六万円(千円以下切捨て)

なお、被害者が就労可能に至るまでの養育費は、その算定が事実上極めて困難であるうえ、負担の主体もその養育監護義務者たる原告両名であるし、また年収額の認定との関連においてもその控除はしないこととする。

2  慰藉料 金四五〇万円

原告両名が本件事故による被害者の死亡によつて精神的に多大の苦痛を受けたであろうことは推察に難くなく、後記の如き本件事故の態様その他一切の事情を斟酌してその慰藉料は各原告についてそれぞれ金二二五万円をもつて相当と認める。

3  葬祭費等 金三〇万四、五〇〇円

被害者の死亡によりその葬祭に要した費用は死体検案書及び診断書の作成料並びに死体処置料も含めて金三〇万四、五〇〇円を要したものと認める。

4  損害の填補 金五〇〇万四、五〇〇円

この事実については当事者間に争いがない。

5  差引小計 金五二六万円

6  弁護士費用 金五〇万円

本件訴訟の難易、本判決による認容額その他一切の事情を斟酌すると被告に負担させるべき弁護士費用としては金五〇万円をもつて相当と認める。

7  合計 金五七六万円

(原告一人当り金二八八万円)

8  過失相殺の主張についての判断

成立に争いのない甲第三号証、第四号証の一乃至六、第五号証、第八乃至第一〇号証、第一四乃至第一六号証、第一七号証の一乃至一二、第一八号証、第一九号証の一乃至六、第二〇号証、第二一号証の一乃至七、第二二号証、第二四号証、第二五号証、第二六号証の一乃至二二、第二七号証の一乃至六、第二八号証の一乃至七、第二九号証、第三〇号証の一、二、第三一乃至第四〇号証、第四一号証の一乃至四、第四三号証の一、二並びに第四四乃至第四六号証を綜合すれば、本件事故は加害車両運転手の訴外塚田健一において、本件交差点を南進し左折東進するに際し、加害車両が大型車両であるため道路左端にできるだけ寄ることができず、かつ同車左側前部に相当大きい死角を生ずることを知つていたにかかわらず既に本件交差点北側横断歩道東端付近に信号待ちのため停止中の被害者を見落し、同児を死角に入る状態で加害車両を停車させ、その後信号に従つて発進するに際し、自車左側を進行する直進車の有無を確認することなく同交差点に進出し左折を開始した業務上の過失により本件事故を惹起したものと認められ、右認定に反する証拠はこれを措信しない。

右事実によれば本件被害者に過失はないと言わざるを得ない。

ところで、仮に被告主張前掲第二の二の4の(一)、(二)の事実を被害者側の不注意乃至は過失であるとしても、これは前示加害者の過失に比べきわめて軽微なものと考えられるので、賠償額の算定の際、斟酌する必要はないものと認める。従つて被告の過失相殺の主張は採用しない。

三  右事実によれば、原告両名の請求のうち、被告に対し、原告一名について、それぞれ、金二八八万円と、これに対する訴状送達の日の翌日である昭和四六年三月九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当であるからこれを認容し、その余の部分については失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言免脱の申立については、相当でないからこれを却下する。

(裁判官 白川清吉)

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